第2部5章 ケナル
ヴィラスティンで去り際にイザークが言っていた「映画の国ケナル」へやって来た一行は、先に到着してどこかに潜んでいるはずのルーファスの姿を探そうとするも、とんでもない人だかりに揉まれ身動きが取れなくなってしまう。
ちなみに「映画の国」はケナル以外にもいくつかあって、監督や脚本、技師や役者など、それぞれの専門性を高めるためにひとつの大国が小国に分離していったその国々の総称。
各国がそれぞれの専門分野で協力して映画制作を行う「ビオスコープ」という国々の連合組織や、さまざまな映画を元に作られたアトラクションや食事が楽しめる「ビートンフィルムパーク」というアミューズメント施設など、国を挙げて世界にエンタメを発信しています。
そんな映画の国は今、年に一度フィルムパークで開催される「映画祭」の真っ最中。
今年はビオスコープの次作映画に当て書きの脚本で出演できる「主役オーディション」が開催されるということで、「我こそは」という役者たちが会場にひしめき合っているような状態。
とにかく身動きが取れないことと、なんとなくこの人混みの中に居れば突然ルーファスが襲ってきても対処できるだろうということで流れに身を任せていると、なぜか主役オーディションにエントリーすることになってしまった一行。
ちょっと順番前後するけどこのオーディションで「愛の告白」の演技をさせられることになったフレイグがもはやフレイグではなく森川さんとしていろんなパターンの愛のセリフを囁いてくれるのぜひイヤホン大爆音でみんなに聴いて欲しいw
万里
映画の国羅漢星の王子。
カンフーアクションスターとして活躍しているゴリマッチョくん。
王家代々アクション俳優で、お城には養成施設とかも併設されてるんだけど、なぜか国王はコメディ俳優。(なぜ
パブリックイメージもあるので内緒にしているが、実は少女マンガとかかわいいキャラクターグッズが好き。ぱんだちゃん。
ジェット
映画の国ボディブルの王子。
アクションを影から支える名スタントマン。
俳優一家に生まれ、人気女優の姉上が3人も居る末っ子長男。
周囲から「名俳優になること」を期待されて育ったが本人はスタントにプライドを持っていて演技は苦手。
初めてのデートが豚骨ラーメンだったことをわたしは決して忘れないw
ジェラルド
映画の国ロマンディアの王子。恋愛映画への出演が多い正統派人気俳優。姉と妹に囲まれて育ったナチュラルレディーファーストボーイ。ロマンディアの白薔薇ジェリー。
なんだけど、とんでもなく運動音痴なので「走る姿がイケてないから」とアクションシーンがある作品には出れなかったりするちょっと残念なイケメン。
テル
映画の国ケナルの第一王子。ビオスコープでいちばん有名な映画監督で、常にカメラを持ってる。
関係ないけどみんながテルの個ストどう思ってるのかめっちゃ気になる←
だってデートするのも手を繋ぐのもその先も全部「映画ではこんな感じ」って言いながらするんだよw
まぁそれはいいとして(コホン
今回ケナルを訪れたルーファスが「ユメクイを生む集団の一味」であること、彼が夢世界の人たちの「平穏や絆がめちゃくちゃになるところを見たがっている」ことをいち早く察知したテルは、その被害を最小限に抑えるため、自分自身が「アトラス側に付いてケナルを裏切った王子」を演じ、ルーファスと行動を共にすることで彼を油断させようと考えた。
そうとは知らずテルを取り戻しにやって来た一行に、一方的に別れを告げるテル。怒りや戸惑いの表情を見せる王子たちに、ルーファスは満足そう。
ウィル
映画の国ケナルの第二王子。テルの弟。みんなの怖がる表情が大好きで、ホラー映画を専門に監督を務める。でも本物の血を見るのは苦手。
ビートンフィルムパークの製作総指揮を兄のテルと二人で担っている。
ケナルを裏切りアトラスを擁護するテルの言葉ひとつひとつに、彼が姫を題材にして制作した映画の台詞が散りばめられていることから、「テルが本当はケナルを裏切っていないこと」「何か考えがあること」を感じ取ったウィル。
そこでウィルは、「ルーファスが勝ったら映画の国の王子たちは全員アトラス側に付く」「姫が勝ったらルーファスはなんでもひとつ姫の言うことを聞く」という謎ルールで、フィルムパーク内で宝探しゲームのような勝負をしようと持ち掛ける。
本気でびっくりしたんだけど、「いいねそれ面白そう」とか言ってめっちゃノリノリなんだよルーファス。
いやそんなこと言いいながらどうせ始まったら普通に殺しに来るんでしょ、って思ったけど、全然そんなことなくて普通にみんなと仲良さそうに宝探し楽しんどる。(目が点
なんか、最初からちゃんと彼を自分たちと同じ人間として扱ってあげられて理解してあげられるビートン兄弟さすがだなって思ったし、わたしは最初から彼にサイコパス変態スパイダーマンのレッテルを貼って一切彼を知ろうとしていなかった愚か者だったんだなって思ったよ…
姫の願い
謎ルール宝探しゲームに勝利した姫の願いは、ルーファスに「質問に答えて欲しい」というもの。
改めて「どうして夢を奪うのか」「誰かを傷付けるやり方でしか夢は集められないのか」と尋ねる。
ルーファスは「先にアトラスを切り捨てたのはトロイメアだから」「これは復讐なんて生易しいものじゃない」と答える。
ナビが「しかしトロイメアはそもそもアトラスなんて国を知らなかった」と言うと、「知らなかったら何?」と苛立つルーファス。
「でも、こんな風に誰かを傷付けて夢を奪っていることをアダムは知っているの?」と姫が聞き返すと、「アダムがなんだって?」とカッとなったルーファスは、「なんだって?」の「て?」くらいの間で衝動的に蜘蛛の糸を姫めがけて放ち、咄嗟にこれをかばったテルが全身血まみれに…
ここゾッとしました。
やっぱりサイコパスやん(怯
わたし、正直ルーファスは姫には直接斬りかかったりしないのかと思ってた。
それよりもちゃんと優しくして油断させてちょっと希望抱いたとこ絶望させて心が壊れてるとこを見たいっていう性癖の持ち主なのかと←
やっぱり本気でかかってきたらこんな感じなんだね。そしてこの怒りよう、恐らくみんなアダムにはいろいろ伏せているんでしょう。
そう言えば、ヴィラスティンで謎のトランシーバーを使ってアダムとイヴァンが連絡を取り合っているシーンがあったんですが、「ひどいことはしてない」「なにも心配しないで」って言ってたんですよね。
なんかホントに、ライトに隠れて夢を奪うことで彼を守ろうと苦しんでいたかつてのホープの姿と重なるものがあります。
テルの揺さぶり
姫を傷付けようとしたルーファスに「約束が違う」とテル。どうやら「アトラス側に付く代わりに姫を傷付けない」ことを約束してたみたいですね。
怒り心頭のテルは、血まみれでよろよろになりながらも、「君はまるで憎しみを抱くように愛や幸せを壊そうとする」「本当にくだらないものだと思うなら無視すればいいのに」「なぜわざわざくだらないものだと証明しようとするのか」「それは君が本当は愛や幸せを求めているからだ」とルーファスに語り掛ける。
本当に勇敢だと思いました。
いやおっしゃる通りだけど、たぶん次の一手で殺されるかもしれないこの状況で、どう考えても敵わない相手に、揺さぶりをかけるみたいに痛いとこ突いて煽るようなこと、わたしなら言えない…
捕らわれるフレイグ
煽られたルーファスは珍しく感情的になって枷が外れたようにこちらに襲い掛かり、一行は苦戦を強いられる。
黒い闇のようなユメクイは地を這い、足元を黒く染めると、地面から湧き出るようにして絡みついてくる。
全員が動きを封じられる中、いちばん最初に全身闇に飲まれてしまったのはフレイグだった。
「返してほしかったらついておいで」と言い残し、フレイグを飲み込んだ闇を引き連れてパーク中心部に向かって歩き始めるルーファス。
「これは何かの罠だ」「ついて行っちゃダメだ」とキエルが姫を掴んで引き留めるが、姫の脳裏にはここまで共に旅をしてきたフレイグの姿が蘇っていた。
実は、ルーファスの元からテルを連れ戻すのに失敗した一行がパーク内を見回りしていた時、アヴィナビキエルの目を盗んでフレイグは姫を観覧車に誘ってたんですよね。「僕はもうすぐトルークビルに戻る」「そしたらなかなか会えなくなる」「思い出を作りたい」って言って。
フレイグの正体
結局キエルの忠告を聞かず、フレイグを取り戻しにルーファスを追いかけて行ってしまう姫。
そしてそこには案の定、ルーファスの他にイザーク、シリル、イヴァンと、アトラスの兄弟全員が揃って待っていました。
こんな強い人たち全員揃ったらもうおしまいだってちょっと思ったけど、ジェットや万里くんが意外と強くてそこそこ互角の大乱闘みたいになる。
そうして決死の想いでフレイグを包み込んでいる禍々しい闇を切り裂くと、コウモリのように飛び散った黒い塊の中から出て来たフレイグは悠然と髪をかき上げ、ゆっくりと瞬きをして、
このようになってました…
え…
アトラスの兄弟たちが口々に「フレイグ兄さんおかえり」「フレ兄おかえり」って彼の周りに集まって、こちらに向き直る。
驚いて声も出ない王子たち。「始めからアトラスの人間だったのか」「一緒に旅をして来たあれはなんだったんだ」と尋ねると、「すべて弟たちのためにしたこと」だとフレイグ。
夢世界を統べる夢王とはどんな人物で、どんな騎士を従え、どんな民に夢を与え、何を考えどんな世界をつくり上げているのか、そういうことをその目で確かめるために仲間のフリをしてしばらく共に旅をするという回りくどいことをしていたらしいです。
おったまげました。
どれくらいおったまげたかと言うと、たぶんホープがユメクイを生み出した瞬間<ナビがお兄ちゃんだった瞬間<越えられない壁<フレイグくらいです。
いやさ、わたしのフレンドさんで1人「フレイグ推し」って書いてた方がしばらくインしなくなっちゃって、戻ったら「フレイグ推し」の文字が消えてたんですよ。
推し変したのかなくらいにしか思ってなかったんだけど、もしかしてここ読んでしまったからなんじゃないか(しんぱい
連れて行かれた姫
さっきは互角に戦ってたと思ってたけど全然そんなことなかったですね。そう言えばシリル1人で大人5人相手にできるんでした忘れてました。そりゃ本気出されたら敵わないです。そもそもユメクイでいっぱいいっぱいなのに、蜘蛛の糸も飛んできて蠍もそこらじゅう這ってますからね。
おまけにイヴァンの目を見て欲を煽られたオーディション参加者の役者たちが同じ役者同士乱闘騒ぎ起こし始めたりして全員もみくちゃです。
余りにもあっけなく姫は彼らにさらわれて、眠らされ、突然上空に現れた黄昏色のムーンロードを渡り、連れて行かれてしまいました。
↑アヴィのこのセリフがすっっっごい悲痛な叫びなんですよ。
と言うかこれだけじゃなく全体的にアヴィがすごくやり切れないような張り裂けそうな声を上げてますこのシーン。
めちゃくちゃ胸が締め付けられました。涙
そうだよね、たぶん本当に長い間ずっと姫の騎士だったアヴィが姫を「連れて行かれてしまった」のって、これが初めてなんだよね。
焦りとか、恐怖とか、不甲斐なさとか、いろんな後悔とか、ぐちゃぐちゃで、冷静でなんていられないと思います。
ボイスなくて文字読んでるだけだったら絶対こんな思い巡らせたりしてなかった。
「痛いほどに伝わる」とはこのことだと思った。
声優さんってホントにすごい。
アトラスの王子
姫が連れ去られてしまった後、肥大した夢に蝕まれた国中の人々が錯乱状態に陥って騒然となるケナル。
ひとまずこの暴動を治めるために、キエルは「自分に任せて欲しい」と名乗りを上げた。
「まだ完璧じゃない」「夢を奪い過ぎるかも知れない」「でもやるしかない」と呟くと、キエルの身体は黒いもやに包まれていく。
その黒いもやが膨れ上がり、大きな黒い鳥のような姿に変わると、次々に人々を飲み込んで、一瞬にして騒ぎは治まった。
暴れていた人たちは倒れてこそいるものの、全員意識はあり無事。ヴィラスティンで暴動が治まったときとまったく同じことが起こった。
そしてキエルは、自分がアトラスの王子であること、ルーファスやイザークたちと同じ「夢を奪う力」を持っていること、しかし国には自分ひとりしか居ないはずで彼らとは無関係であること、さらにアトラスはこの世界からひどい方法で夢を奪うつもりはないことなどを説明する。
本当はトロイメアに何が起きているのかをただ知りたくてここに来たが、「アトラスから来た」と言ってひどい方法で夢を奪う兄弟たちが居ることを知り、本当のことを言い出せなかったらしい。
姫が連れて行かれた先がアトラスだとすれば、「トロイメアからムーンロードを架ける方法があるはず」だとキエル。姫を取り戻すため、アヴィ、ナビ、キエルは共に走り出した。
夢を奪う力
改めて、わたしは何も理解していませんでした←
そもそもユメクイって、夢王族の誰かがホントに世界に絶望したときに負の感情が黒いエネルギーになって突然生まれるものなのかと思ってた。
夢を奪う力って、本来与える力を持ってる人が逆に振れちゃったときに芽生えるもんなのかと。
違うんだね。
持って生まれるものなんだ。
そしてキエルは「選ばれて」その力を持って生まれてきたんだね。
実は、ショコルーテでシリルが奪う力を乱用しまくって街の人眠らせまくってるとき、「その力はそんなことのためにあるんじゃない」「俺はそう教えられた」みたいなことを呟いていたんですキエル。
かつてライトが夢王様から「夢を与える力」について教えられたように、キエルもきっと父上から教えられて、アトラスの意志を継ぐものとして「夢を奪う力」の持つ使命を託されてる。
「アトラスから来た」と言ってひどい方法で夢を奪う兄弟たちの本当の正体や目的は分からないけど、恐らく彼らも本来何か使命を果たすために奪う力を宿してこの世に生まれて来ているはずで、ただキエルのようにその力の持つ本当の意味や使い方を誰にも教えられていないから、まるでかつてのホープのように、「愛する者を守るために世界を傷付けてしまう」道をいま歩んでしまっているのだと思う。
わたしさ第1部を読んでひとつ思ってたことがあったんだよ。
ライトが指輪のないトロイメアで夢王になってその命を削って世界に夢を与えなきゃならないってなったとき、ホープは街に出て反乱軍の生き残りとかそれに似たような横暴な人を眠らせて回ってたりとにかく「奪う力」を使ってライトを守ってた。
ぶっちゃけなんでホープは(彼もきっと持ってるはずの)「与える力」を使わずに、突然変異的に生まれた(ように見えた)得体の知れない恐ろしい力の方ばかり使うんだろうって。
だってライトが夢を与え過ぎて弱っていたならたとえばライトに夢を与えて補充したり、公務も代打を申し出たって良かったわけだしね。
「こんな世界に夢を与える価値なんてない」って言ってたし、きっと「それだけこの世界に夢を与えることを嫌がっていた」「世界が滅亡することだけを望んでいた」ってことなんだろうとは解釈してたけど、それにしても頑なだなぁと。
たぶんそれ、できなかったんだよね。
ホープは世界に夢を与える夢王の息子で間違いなくトロイメアの王子なんだけど、生まれつき奪う力を持って生まれてきた子で、ライトや姫のように与える力を持ってなかったんだろう。
そう考えたらなんかすごく腑に落ちる気がする。
あともうひとつ、これは言ったら父上やライトや姫に申し訳なくて言えなかったんだけど、デジールの2度目の反乱がホープの奪う力によって鎮圧されたとき、「これが正しいんじゃないか」ってちょっと思っちゃったんだよね。
つまり夢が肥大したことによってトロイメアに攻め入った反乱軍は「夢を奪われて鎮圧されるべき」なんじゃないかって。
ナビはトロイメアが秘境の地だから攻め込まれることを想定していなかったっていってたけど、そもそもそれがおかしな話だよね。
だってトロイメアに何かあったら夢世界は終わりなんだよ。
イヴァンの目がなくても夢は肥大して欲になることがあると言うなら、夢世界の長い歴史の中で、もっと夢が欲しいとか指輪が欲しいとか、よからぬこと考えるのはきっとデジールの民だけじゃなかったはず。
そのたびに騎士の国やどこかの国が応援に駆けつけてたっていうのもありっちゃありだけど、神聖な場所で簡単に踏み入ってはならないような国ならもっと神に近いような方法で守られててもおかしくないんじゃないかと。
アトラスへのムーンロードが特別な方法でトロイメアから架かるのは、もしかして本来トロイメアの不測の事態に対処するための国としてその国が存在してたからなんじゃないか。
でも、夢王は夢を奪うことで反乱を鎮圧するのは良しとしてなかった。
夢は誰にでも等しく与えられるべきであり、誰にも奪う権利はなくて、そのうえで民と向き合うのが夢王だから。
その想いがなければたぶん夢王にはなれないから。
で、どこかのタイミングでトロイメアとアトラスは決裂してしまった。だから彼らは夢世界には存在しない国かのようにしてひっそりと暮らしてて、でも結局アトラスも夢がないと生きられないから、今その歪みが来てるとか。
いずれにしてもアトラスとトロイメアは元々かなり繋がりが深い国だったんじゃないかと思います。
そしてその歴史を紐解いていくことはホープのルーツを辿ることになっていくんじゃないか。
すごく気になる。知りたいです。
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