第2部6章 トルークビル
姫が目を覚ますと、そこは四方を堅牢な隔壁に囲われた牢獄のような村、フレイグの故郷だと言う「トルークビル」だった。
それはアトラスにある小さな小さな孤島の岬の先端。誰も知らない隠された土地の名前。しんと静まり返り、住む者は彼らだけだと思われる。
灰色の空に覆われた冷たく薄暗い部屋には、フレイグ、イザーク、ルーファス、シリル、イヴァン、そして何度も夢で言葉を交わしたあのアダムの姿が。
生気を失い、喘ぐように息をして、苦しそうにベッドに横たわるアダム。
彼を取り囲むように立つ兄弟たちは、これまでさまざまな国から奪ってきた膨大な夢の力を懸命にアダムの身体に取り込ませようとしていた。
彼の身体からは信じられないほど強大な夢を奪う力の気配がして、必死に夢を取り込んでいるはずなのにほとんど死線を彷徨っているような状態。
瀕死のアダムを見過ごすことができない姫は、「自分の力でアダムに夢を与える」と申し出る。
兄弟たちが見守る中、幾時にも及ぶ長い間、必死に指輪を握りしめ、祈り続ける姫。トロイメアの指輪の力によって増幅された夢は、生まれた傍から飲み込まれ吸い取られ続ける。
いよいよ姫の力が限界を迎え、意識が遠退きそうになる寸でのところで、「もう大丈夫だ」とアダム。ほんの少しだけ頬に血色が戻っていた。
どうやらアダムは普通の人間の何百倍もの夢の力を必要とする体質を持ち、生まれてから1度もその身体に夢が満ちたことがなく、常に飢え、走ることも歩くこともなくこの牢獄のような村でただひたすら横になって生きて来たらしい。
改めて、「姫には一生ここで共に暮らし、一生アダムのために夢を与えてもらう」と兄弟たち。
その申し出に戸惑いながらも、苦しそうなアダムの姿を目の前にして「なんとかしてあげたい」と思ってしまう姫。
その夜、兄弟は「歓迎会」だと言って、姫に食事を振舞ってくれる。
姫の夢の力によって「こんなに身体が楽になったのは初めてだ」というアダムも交えて、家族の和やかな団らんには、まるで今日までの出来事が嘘であるような、穏やかで温かな空気が流れていた。
夢を奪う者たちの国アトラス
食事の後、姫と弟たちを小さな裏庭の墓石の前に集め、「大事な話がある」とフレイグ。「こんな場所で?」と訝し気な弟たちを尻目に、トロイメアとアトラス、そしてトルークビルの歴史についてフレイグは語り始める。
生と死、善と悪、光と闇があるように、夢を与える力と奪う力もまた、万物が存在し得るための法則として世界に必要なものだった。
与える力を持つ者と奪う力を持つ者は、かつてはひとつの王族として存在し、人々が生きるために夢の力を与え、そしてその夢が肥大して欲に変わらないよう時に奪いながら、夢世界の均衡を保っていた。
しかし、身勝手で愚かな人間たちはいつしか奪う力を恐れ、この力を持つ者を迫害し、最終的に彼らはトロイメアの手によって辺境の地へと追いやられてしまった。
こうしてトロイメアから切り離され生まれた国が、夢を奪う者たちの国、アトラス。
アトラスは歴史からその名を抹消され、夢世界にその国を知る者はほとんど居なかったが、トロイメアの夢王とほんの一部の家臣たちだけがこれを知っていて、年に一度、トロイメアから特別な方法でムーンロードを架け、アトラスの人々に夢を届けていたと言う。
流刑の地トルークビル
ある時、アトラスの王家に、夢世界を丸ごと飲み込んでしまうほどの「強大な奪う力を持った異端児」が生まれた。
「奪う力を持つ」というだけで弾圧され排斥されてきたと言うのに、さらにそれがこれほどの力ともなれば、トロイメアから次はどんな仕打ちを受けるか分からない。
それを恐れたアトラスの王族たちは、この異端児を殺し、その血筋は穢れをなしたとして流刑に処された。
異端の血筋である先祖たちが流れ着いたこのトルークビルの地で暮らすようになってから長い年月、その子孫に異端の子は一度も生まれて来なかったが、20年前、アダムの誕生により、一族の飢えは壮絶を極めた。
そして追い打ちを掛けるようにして、トロイメアからの夢の供給が突如として途絶えたと言う。
夢の供給が途絶えたのは、恐らくデジールの反乱によって夢王が没し、後を継いだライトにアトラスの存在が引き継がれていなかったためである。
これを知らないアトラスの民は、トロイメア側からしか架からないというムーンロードをただ待ち続け、夢の施しを求めながら、しかしトロイメアが自分たちにしてきたすべての仕打ちを恨みながら、ひとりまたひとりと眠りに就いて行った。
秘匿の国アトラスのさらに秘匿の地トルークビルの兄弟たちは、生まれた瞬間から「穢れた血筋」であり、生きているだけで「流刑に処された罪人」であり、僅かな夢の力を一家で分け合って生きて死んでいくしかない存在。
恐らく知られれば殺されてしまうであろうアダムをアトラス王家からひた隠し、怯えながら、夢の供給が途絶えたのはもしかして何らかの方法で「異端児の誕生を知ったトロイメアがついに自分たちに死刑宣告をしたということではないか」と考えるようになった兄弟たち。
生まれる前から世界に見放されていて、世界から迫害されていて、この牢獄のような村で、20年間も夢がない状態で、彼らは一体どうやって生きて来たんだろう。
それこそマグナ学派みたいに、夢を持たないように、希望を持たないように、絶望して、夢の力を一切消費しないようにして生きて来たのかな。
きっと想像もできないくらい凄惨な光景を見て来たんだろうね。
それでもこうやって兄弟で支え合ってる。本当に心が強くて立派な子たちなんだろうと思う。
ちなみに同じ頃、姫を取り返しに急ぐ道中、アヴィとナビもキエルから同じようにトロイメアとアトラスの歴史について話を聞いていました。
キエルはアトラスの王子として、家族や国の人たちが次々眠りに落ちていくのをどうすることもできずただ見届けながら、ある時はトロイメアを憎んだりもしたけど、みんなのために必死に祈っている姫の姿を夢に見て、「トロイメアで何かが起こってる」「何が起こっているのか確かめに行かなければ」と思い至ったそう。
ただし、自分たちアトラス王家の祖先たちが異端児を刑に処した過去や「トルークビル」という名の流刑地の存在までは知らない様子。
与える力と奪う力はふたつでひとつだったんだね。それが本来の夢世界だったんだ。
奪う力は与える力を守るための力だったのかなってちょっと思ってたけど、そうじゃなくて、与える力と同じように夢世界の人々を守るための力だったんだ。
ユメクイは人を殺すバケモノなんじゃなくて、人がバケモノになって人を殺してしまう前にそれを止めに来る大きな黒い鳥なんだ。ケナルでキエルがしてくれたみたいな。
彼がアトラス王からその役割をちゃんと教えられて力を使いこなせるようになった状態でここに居るってことは、夢世界の正しい姿を忘れてしまってるのは本当にトロイメアだけなんだ。
奪う力を追いやって、アトラスを忘れ去って、だからきっとカラビナは滅びたし、チルコは子どもだけになって、ヴィラスティンには夜行の花が生まれた。
そして、「夢を奪うなんて許されない」って想いを原動力に戦い、「奪う力を持つ者」だった大切な人を失ってしまったナビと姫が、その事実にちゃんと向き合えるの、すごい。
わたしは直視できてないです…
まぁ、2部が6章までリリースされてまだホープの太陽ストで時間止まってしまってるのたぶんこの世にわたしだけなんだろうとは思うけど←
だって、どうしても、どうしても、ホープがこの夢世界から居なくなる必要って、じゃあなかったんじゃないの? って想いが拭えないんだよ。涙
正直、奪う力が「持って生まれたもの」だって知った時からずっとしんどかった。
なんかさ話聞く限りトロイメアの王家に「与える力」と「奪う力」の王子が双子で生まれてくるのってそれこそ「異端」だよね?
単純に考えたら、もともとひとつの王族だった与える王子と奪う王子が、それぞれ王家を築いてそれぞれに子孫繁栄していったなら、トロイメアには永遠に与える王子が生まれ続けるはずだし、アトラスには奪う王子が生まれ続けるはずだもん。
ホープがトロイメアに生まれるのってすごい不思議じゃない?
「もともとひとつの王族だったんだよ」って伝えるために生まれて来たみたいな存在じゃない?
ホープの最期を「これで良かったんだよ」って思いたいのに、「まさか違ったんじゃないか」って気持ちが止められなくて、しんどい。涙
フレイグの計画
トロイメアの古い価値観に基づいた「人々に夢を平等に与える」というこれまでの夢世界では「アダムが幸せに生きることができない」と考え至ったフレイグは、夢世界の新しい理である「与える価値のある人間に与え、価値のない人間からは奪う」という構造を新たに自分が創り出すことで、この夢世界を「更新」するのだと語り出す。
何も聞かされていなかった様子の弟たちは、「世界だなんて大げさな」「姫の力と自分たちが奪ってくる夢の力でアダムは充分生きられるのではないか」と驚きと戸惑いの言葉を口にする。
しかしフレイグは、「それでは我々は永遠に略奪者だ」「なぜ生きているだけで罪人にならなければならないのか」とこれを一蹴。
遡ればアトラスの王族の血筋である自分たちの中でも最も強大な力を持つアダムは、本来は世界の頂点に立っているべき存在であると。
「夢を与える価値のない人間なんていない」という姫の返答は「綺麗事だ」と嘲笑し、「新世界の力の象徴として君臨する与える姫と奪うアダムには婚姻を結んでもらう」と、ひとり勝手に話を進めていくフレイグ。
「あとは僕に任せて」「アダムとすべての人々が幸せに暮らせる夢世界を目指しましょう」と力強く言い切ると、満足げに微笑んだ。
「光は必ずある」
アダムとすべての人々が幸せに暮らせる夢世界を実現したいという気持ちこそフレイグと同じでも、「夢を与える価値のある人間を選んで与える」なんてことは絶対にあってはならないと考える姫。
しかし、「夢を平等に与え、肥大したら奪う」という本来の夢世界の姿を勝手な理由で破綻させてしまったのはトロイメアであり、その結果夢を与えられずに苦しんでいた人が居たのは事実であって、説得の手立てがない。
そして、与えても与えても満たされることのない強大過ぎるアダムの奪う力には、確かにどう向き合えばいいのか分からない。
そんなことをもくもく考えながら用意された寝室までの廊下をてくてく歩いていると、突然ルーファスに壁ドンされる(怖い
フレイグの新世界計画が「まるで兄さんの操り人形のようで気に入らない」と言うルーファスは、自分の身体と冷たい壁の間に姫を押し込めて、「ねぇ」「一緒に逃げちゃおうか」と耳打ちしてくる。
これに対し姫は、「私は逃げない」と言い返し、ベタベタしてくるルーファスを両手で押し返す←
「夢を奪ってまで守りたかったものをルーファスは諦めるの?」「私にはもう叶わない、あんなに楽しそうで幸せな家族団らんの時間を」
そして、自分は「夢を平等に与える世界」も「アダムが幸せに暮らせる世界」もどちらも諦めない、「光は必ずある」と言い放つ。
ルーファスはびっくりしたような顔をして、さらにちょっぴり悲しそうな顔をして、「有り得もしないものを求めさせるのか」「お姫様は残酷だ」と言ってまぶしげに目を細めた。
わたしこの姫の「諦めない」とか「逃げない」発言すごい好きなんですよ。
めちゃくちゃ元気付けられる。
夢の力与えてもらったような気持ちになる。
たぶんライトがいつも言う「光はある」って言葉が姫に受け継がれててこれがキーワードなんだろうけど、それよりもその前後の「諦めない」とか「逃げない」のセリフの方が個人的にはなんかぐっと来てしまう。
第1部で、最後アヴィたちみんな目を覚まさなくなって、ライトでさえ全部諦めて終わりにしようとしてて、さらに自分はまた異世界に引き戻されようとしてる局面で、「私は諦めない」って叫ぶシーンがあるんですけど、泣いたもん←
やっぱりトロイメアの姫だなって思う。
ルーファスにも伝わってるといいな。
アダムの望み
明け方、部屋の窓からどこかへ歩いていくアダムの姿を見付けた姫がこれを追いかけると、彼は庭で小さな花に水やりをしていた。
「今まで花のお世話はすべてイヴァンに任せていた」「自分はベッドから起き上がれなかったのでいつも窓からそれを見ていた」と穏やかな笑顔のアダム。
兄弟たちの想いとは裏腹に、アダムは「死」を望んでいた。
自分は多くの屍の上に生きていて、誰に責められても仕方のない人間であり、世界を不幸にする存在。
優しい兄弟たちは自分が生まれたせいで壮絶な飢えと戦い、苦しみ抜いて、さらに今回は人の夢を奪い、多くの人から恨まれることになってしまった。
しかし、その人生を捧げてまで自分を愛してくれる兄弟たちに「死にたい」とは言えないと。
フレイグ兄さんは長男としていつも矢面に立ち新しい道を切り開くけれどそこに伴う艱難辛苦はなかったもののようにひとりで背負ってる。
イザーク兄さんは誰よりも兄弟想いで世話焼き。
ルーファス兄さんはみんなの前ではしないけどいつもこっそり自分に夢を分け与えてくれる。
末っ子のシリルは本当は誰よりもお兄ちゃんたちに甘えたいのに、生まれた時から自分が居るせいでとても寂しい想いをしてる。
そして生まれる前から一緒だった双子の弟イヴァンは、「アダムがこんな身体で生まれてきてしまったのは自分のせいだ」と考えてしまうほど優しい。
自分が「死」を口にしたら、みんなどれほど傷付いてしまうだろう。それを考えたらどうしようもなく悲しくて苦しい。だけど、それでもみんなには、自分なんかのためじゃなくそれぞれの人生を歩んで欲しい。
ここ、CVほりえるの語り口調が独特で、なんか涙出ました。「死にたい」と「でも言えない」がめちゃくちゃ淡々としてるんだけど、それが逆に悲痛なんです。
花の水やりを終え、改めて姫に向き直ると、アダムは最後に兄弟で楽しく食事をすることができて嬉しかったこと、そして自分の終焉はどうか「姫に見届けて欲しい」、みんなに「限りない幸せをありがとうと伝えて欲しい」と打ち明けます。
実はアダム、姫に見送られて美しい場所へと旅立った「ホープの最期」を夢で見ていたらしいんです。
トロイメアの姫のお兄さんは「自分と同じ奪う力」を持っていて「永遠の眠りに就いた」って。
出会ったときルーファスやイザークがホープのことを知ってるような口ぶりだったのはこの夢の話を兄弟たちにもしてたからみたいですね。
そして自分の最期を見届けて欲しい人が「姫」なのも、ホープを見て「同じように眠りに就きたい」と思ったからなのかも。
ちなみにひとつよく分からないのが、そんな夢を見ていたら、なぜか突然アダムは「空にムーンロードを架けることができるようになった」らしい。(…なんで?
なんかここの解釈がいちばん難しい気がする。やっぱりホントにアトラスの王になるべくして誕生したのはキエルじゃなくアダムの方だったってことなんかな。元は同じ王族の血筋だし。
ただ、この黄昏色のムーンロードがレコルドに架かったちょうど同じ日にアダムもキエルも「姫の夢を見た」って言ってたので、もしかしたらトロイメアとアトラスとトルークビルを引き合わせるために働いた誰かの不思議な力だったのかなぁとも思います。
ユメクイの中で
死を口にするアダムに対し、姫が「もう少し待って欲しい」「必ず方法を見付けるから」って力強く返事をした瞬間、突然アダムはその場に倒れ込み、青白い顔をして苦しみ出してしまう。
物凄い音と風を立てて身体から黒い闇が湧き上がり、立っていられないアダムは、絞り出すような声で「抑えられない」「逃げて」と姫に伝える。
際限なく湧き出てくる闇はどんどん大きくなり、やがてひとつの大きな塊に。
これは姫がかつて見た、ホープが生み出した巨大なユメクイと同じ気配を纏っていた。
そして、実はケナルから姫が連れ去られた直後、こっそりアダムが架け直していたらしいムーンロードを渡ってトルークビルに到着していたアヴィ、ナビ、キエルの3人も、突然近くで感じた「あのホープが生み出したユメクイのような気配」に驚き、それに向かって走る。
アヴィたちがちょうど兄弟が暮らす家の庭先に辿り着いたとき、まさに姫はその大きなユメクイの塊に飲まれゆく瞬間でした。
アダムのユメクイの中で姫が捉えたのは、幼き日のフレイグとイザーク、そして彼らの母親らしき女性が、飢えに苦しみ瀕死状態の小さなアダムを抱き抱えている姿。
トロイメアからの夢がこうして途絶えたままであれば、真っ先に死んでしまうのはアダムであると考えた母親は、自分の夢の力をすべてアダムに奪わせることを決意した。
フレイグはなんとかこれを止めようとするが、母は「どうかアダムが幸せに生きられる世界にして欲しい」とフレイグに未来を託し、アダムの身体から立ち上る闇にその身を差し出して、息絶える。
悲しい母の最期を目の当たりにしてしまったフレイグとイザーク。そして母の命と引き換えに一命を取り留めたアダム。
2度と目を覚まさなくなってしまった母にフレイグは「分かったよ母さん」「僕が世界を変える」と独り言つ。
この日の誓いを果たさんとして、フレイグは昨夜その計画を母の墓石の前で姫と弟たちに語ったのだった。
アダムが「僕はたくさんの亡骸の上に生きてる」って言ってたの、兄弟たちが奪ってきた夢のことだけじゃなくて、お母さんのことも含まれてたのかな。
ただ、この時アダムはほとんど意識がない状態に見えたのと、お母さん最後「このことは2人のお兄ちゃんしか知らない」「弟たちには秘密にして欲しい」とお願いしてたので、もしかしたら詳しくは知らないのかも知れない。ホープのユメクイの中で夢を見た時も、それが丸々ホープの記憶だったってわけじゃなかったし。
ここストーリースチルになってるので載せませんが、当時フレイグは青年、イザークは少年です。特にイザークは、まだお母さんの言葉を受け止められるような年齢に達していなかったと思います。
アダムの双子の弟であるイヴァンがよく苦しそうなアダムを見ていられなくて「もう俺の夢を奪っていいから」って言ってしまうんですけど、これにいちばん過剰反応して激怒するのがイザークなんです。彼の中で一種のトラウマになってるのかも。
そしてフレイグは、典型的「きょうだい児」ですね。「世界があなたを憎んでも私はあなたを愛してる」って言ってアダムにその命を捧げてしまった母に、「フレイグよくやったね」「世界を変えてくれたのね」「愛してる」って言って抱き締めて欲しいんだよ。だからあんなに「世界の更新」にこだわってる。
ユメクイを取り込む
駆け付けたアヴィ、ナビ、キエルの救出でなんとかユメクイの外に出られた姫は、彼らの必死の呼び掛けによって目を覚ます。
するとそこには闇を纏い、おびただしい数のユメクイを撒き散らしながら、がくりと膝をついて苦しそうに顔をしかめるアダムの姿があった。
地鳴りのような轟音、突風、生み出され続ける闇、ただならぬ事態に兄弟たちも庭に集まって来る。
夢の力は足りているはずの彼の身体からこんなにも膨大な奪う力が放たれているそれを見て、「足りているのに夢が欲しいんだ」と呟くキエル。
アダムは自分の意志ではなく、本能で姫の夢の力を欲していた。
もしかしたら「必ず方法を見付ける」という光そのものであるかのような姫の言葉にアダムは「生きたい」って思ったのかも知れませんね。
死を望むほど絶望してた人が「やっぱり生きよう」って思うことってすごく夢のエネルギーを使う気がするもん。
姫は懸命に夢の力を与えようとするも、大き過ぎる闇の壁に阻まれてアダムの姿を捉えることができず、どうしても上手くいかない。
するとキエルが、「アダムのユメクイを自分が身体の中に取り込む」「彼のユメクイが弱ったところを狙って祈って欲しい」と申し出る。
この事態を収拾できるのはキエルと姫しか居ないと判断したイザークやイヴァンは、闇の塊からはぐれて見境なく襲ってくるユメクイを、アヴィと共に助け合いながら斬り払っていく。
そうしてようやくアダムの力の暴走が収まったとき、彼のユメクイを取り込み過ぎたキエルの身体は立っているのがやっとな程に消耗し、アヴィや姫には夢の力がほとんど残っていなかった。
蜘蛛の糸
事が収まり、力を暴走させて疲労困憊のアダムとその力に当てられたイヴァンを休ませようと弟たちを部屋に運んで行くイザーク。
その隙にトルークビルから撤退しようとほとんど気力だけで走る一行の逃げる背中を、今度はフレイグとシリルが狙撃してくる。
姫にこれ以上祈る力が残っていないうえ、アヴィもキエルもまともに戦えるような状態ではなく、応戦するも勝敗は明らか。しかし、フレイグの剣とシリルの鎌がアヴィとキエルそれぞれの首に食い込もうとしているまさにそのとき、彼らの武器を絡め取ってその動きを封じたのは、ルーファスの放った蜘蛛の糸だった。
気まぐれなのか何か思惑があるのか分からないようなひょうひょうとした態度で脱出の手助けをしてくれたルーファスによって、フレイグの手中から無事に姫を連れ戻し、逃亡を図ることに成功した一行は、再びアダムが架けてくれたムーンロードを渡り、トルークビルの地を後にした。
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