第2部7章 廻天
アダムが架けてくれたムーンロードは弱々しく不安定で、一行がこれを渡り切る前に消滅してしまう。3人は宙に投げ出され、地上へと落下。落ちた先は湯元の国、廻天のよろず温泉地だった。
一帯を覆っているその湯煙の中には、姫、アヴィ、ナビ、キエル、そして一行をトルークビルから逃がしてくれたあのルーファスの姿が。
空から落ちたはずの全員が無事だったのは「ルーファスが助けてくれたからだ」とキエル。
さらにルーファスは、「あんな化け物の夢を喰ってたら俺でも身が持たない」って言って、キエルが身体の中に溜め込んだままのアダムのユメクイを引きはがして自分の身体に取り込み、外に放出してくれます。
これ面白いなって思った。
わたしたちがずっと「ユメクイ」って呼んでたあの目がある生き物みたいなやつも、彼らの身体から出てくるこの黒紫のもやのようなものも、実は全部同じ「奪う力」が形になったもの、なんだよね。
しかも、キエルのユメクイは大きな黒い鳥のような形になったりするけど、ルーファスのは蜘蛛っぽかったりイザークのは蠍っぽかったりフレイグのはコウモリみたいだったり、それぞれ個性や特徴があったりして。
で、奪う力を持ってる人たちは自分のじゃない別の人のユメクイも身体に取り込むことができる。さらに、彼らはそれを「ユメクイ」とか「奪う力」じゃなくて「夢」って全部一緒くたに呼ぶんだなぁと。
要は「奪う力が夢を抱えてる状態のもの」ってことだよね?
彼らにとっては奪う力ってのがもう身近過ぎて当たり前過ぎるから、わざわざごちゃごちゃ別名で呼んだりしないってことなんだろう。なんか「アトラス語」って感じで面白いなって。
↑ちなみにこれ、キエルから取り込んだ夢をそのまま直ぐに外に放ったのでそこにはよく見るあのユメクイが生まれてしまうんですけど、「何をしたの?」って聞く姫に「アダムのユメクイを外に出しただけ」って答えるルーファスの声、息上がってて、震えてて、めちゃくちゃ苦しそうなんです。
改めてこれをずっと身体に入れたまま元気に笑って喋って走ってたキエルはすっごい無理してたと思うし、この子が痛いとか苦しいって言うときはたぶんもう手遅れなんだろうなって思った。(殴
那由多
湯元の国廻天の王子。「幻の温泉郷」とも言われる廻天の守り神「猫神」の眷属である「猫又一族」の長。500歳。
「人間の姿を保ててこそ力のある猫又」「猫の姿を見られるなんて恥ずかしい」って言うんだけど、2本の尻尾だけは「便利だから」っていつも出してある。
廻天には疲れを癒す効能のある温泉から怪我を治す温泉、恋の病に効く温泉や本音を喋ってしまう温泉などさまざまな湯が湧いていて、そのすべてを王子である那由多が管理している。
この地一帯に結界を張って外から見えないようにしているのも、入国審査をし、湯治客がどんな癒しを求めているかを判断して案内するのも、充分に癒えたら出国の許可を出すのも、全部那由多の役目。
那由多の個ストはやばいですよ。
一緒に温泉入るだけなんですけど、ゆったり、ゆったり、やおら手の平の上で転がされ続け、のぼせます←
今回は、突然空の上から降って来た一行を「癒しが必要だ」と迎え入れ、「癒えるまで休め」ともてなしてくれる那由多。
「薄気味悪い」と毒吐いて来るルーファスも軽くあしらって、癒しの香りで眠らせたり、怪我が回復するよう計らってくれる。
ルーファスは姫たちをフレイグから逃がすときに脇腹ざっくりいかれてしまってたみたいですね。
ちなみに那由多は500年生きて来てアトラスの奪う力については1度も聞いたことがないと言ってました。アトラス秘匿の時代は相当長そう。
そして、「番台として入湯料を取らないわけにはいかない」と言う那由多は、ある探し物をするために廻天に来ているらしい「文壇の国の王子たちの用事を手伝うことを入湯料の代わりに」と提案してくる。
藤目
文壇の国東雲の王子。恋愛小説家。
出会った頃は執筆に行き詰まり文学賞の授賞式をすっぽかして草笛とか吹いてたので、「何か手伝えることがあれば」と声を掛けたところ、作品のインスピレーションのために「一緒に疑似新婚生活を送って欲しい」と頼まれ、ニセの妻となって彼にオムライス作ってあげたりしてた過去があるため、姫のことを一生「奥さん」って呼んでくる(かわいい
カゲトラ
文壇の国ヴィルヘルムの王子。
ハードボイルド小説の悪役のような風貌をした絵本作家。
歳の離れた病気の妹「イブキ」のために書いた絵本をとても喜んでもらえたことが切っ掛けで「幸せな結末の絵本」を書くようになった。
姫のために書いてくれた青い鳥の絵本は「過去最高傑作」。
グレアム
文壇の国ミステリアムの王子。
100年に一度の天才と言われるミステリー作家。名探偵。
グレアムくんからのお手紙は複雑に織り込まれててなかなか開封できない←
また、衝撃を受けるほどの隠れ肉食系男子です。
かわいいからって油断しないようにしましょう。(ぇ
お祖父様が盛大にネタバレしてしまうミステリー文学体験は楽しかったなw
文壇の国の王子たちは、この地へ隠されたというある一冊の本を探しに廻天へやって来た。
その本はユメクイの被害が広がり始めた夢世界へ姫がやって来て間もなくの頃、王子たちがまだ指輪の中で眠っていた頃に、ある作家によって出版されたものだった。
その頃各国ではあの「マグナ学」が広まっていて、文壇の国における希望の象徴である書籍はすべて国民たちの手によって燃やされてしまったらしく、残っているのはここに隠してあるたった一冊だけなのだと言う。
また、当時マグナ学派の焚書に反発していた何人かの作家は、ある時を境に「忽然と姿を消してしまっている」ことも分かった。
彼らがマグナ学派の国民たちの手で殺されてしまったのではないか、もしそうだとしたら文壇の国の王子として知らないままでは許されないということで、過去をつまびらかにし、改めてこれからの国のことを考えて行かなければならないと感じている。
てか、マグナ学ってまじでめちゃくちゃ広まってたんだね。がんばってたんだねカーサ←
過去を知ること
探している本の作家が残した暗号のような日記を紐解いて辿り着いた地下の洞窟には「廻天を訪れる龍神を祀る」ための祠があり、その中に目的の書籍が隠されていたのをついに発見する一行。
巻末には直筆の文章で、自分はもうすぐ共に執筆活動に明け暮れた仲間たちの手によって殺されてしまうこと、しかし彼らと共に希望を持って生きることが自分の求める未来であり、決して書くことは辞めないという強い意思、さらに、「どうかこの本を誰かに繋いで欲しい」「この世界に希望を取り戻して欲しい」という願いが綴られていた。
文壇の国の過去を知ることは、反マグナ派の作家たちがみな「仲間に裏切られ殺されてしまった」という惨たらしい事実だけではなく、そこに生きた人たちの「願い」や「想い」を知り、繋いでいくことであったと気付かされた姫。
トロイメアが奪う力を持つ者を辺境の地へ追いやってしまった過去についても、きちんとこの目で確かめ、当事者たちがどんなことを願ったのかを知るべきなのだと考え始める。
なんてことはないんだけど
個人的にすごく好きなシーンなので残しますw
お風呂上がりの姫を見付けて「よう、今戻りか」って話しかけて来てくれるアヴィ。「今ちょっといいか?」って聞いてきて「なに?」って言った瞬間もうハグです←
ケナルで姫が連れてかれちゃったときのアヴィの悲痛な叫びと、トルークビルでユメクイに飲まれて気を失ってる姫に必死に呼びかけるアヴィの声を、ちゃんともっかい聴いてから読みたいとこなんですよねここは(アヴィ姫推しガチ勢やめて
アヴィが大事そうに大事そうに姫をぎゅってして「怖い思いさせた」「守れなくて悪かった」「無事で良かった」って言うんです。やだ泣いちゃう。もうアヴィの傍を離れないでね、姫。
光を信じて
廻天に滞在してしばらくたった頃、姫たちが空から落ちて結界が破られたところから温泉郷に侵入したらしいイザークが一行を襲ってくる。
ユメクイに苦戦する王子たちを尻目に、大量の蠍を放ち、姫を操ってでも連れ帰ろうとするイザーク。
どうやら自分を連れ戻しに来たわけではない、フレイグがその計画のために必要としているのはあくまでアダムとトロイメアの姫だけであるということに不満げなルーファスは、イザークを挑発し、王子たちに加勢する。
その様子に苛立ち、「これ以上邪魔をするならお前も敵だ」とルーファスを睨み付けるイザーク。「なら本気で殺し合おうか」と言い返すルーファス。
そこに割って入ったのは、「やめて」「戦わないで」と叫びながら、兄弟が傷付け合うのを必死に止めようとする、姫。
「どういうつもり? せっかく守ってあげようとしてるのに」と怪訝そうなルーファスに姫は、フレイグの計画は必ず自分が止めてみせる、みんなもアダムも幸せに生きれる世界を見付けてみせる、だからルーファスも勝手に終わらせようとしないで、光を見失わないでと訴える。
「でも見付からなかったら?」と聞き返すルーファスに、見付からなくてもまた探す、諦めない、この旅に必要なのは「光を信じて進むこと」、だからルーファスも信じて欲しい、一緒にトロイメアに行って過去を知ろう、かつて与える者と奪う者が何を考え何を願い何を未来に繋ごうとしたのか、そこにアダムの力をどうにかする方法が隠されているかも知れないと力強く説得を試みる姫。
これを鼻で笑い、「そうやってルーファスを手懐けたのか」と一瞥して、再び攻撃を仕掛けてくるイザークだったが、「お前たちが降って来たときから追手が来ることは予想していた」「このために力を残しておいた」という那由多が、白煙と共に湧き出したお湯の神聖な力でイザークを結界の外へと消し去り、事態は収束したのだった。
ルーファスの「光」
なんと、なんと、なんと、今回7章をクリアすると報酬でルーファスが手に入ります。この個ストがホントに素晴らしい。
ぶっちゃけ前章ではキエルが報酬、その前にもまだ仲間だった頃の姿のフレイグとかもらえてたりするんですけど、正直彼らの個ストは大した内容ではないです(ぉぃ
いや確かにルーファスも大した内容ではなくて、ネタバレすると子どもの頃ルーファスはイザーク兄さんの気を引きたくてからかって走って逃げて隠れて追いかけて来てもらうのを待ってたんだけど、夜になっても誰も来てくれなくて、帰ったらみんなアダムのことで手いっぱいでルーファスどころじゃなかった、みたいな昔話を、あの彼の独特な掴みきれない感じで、投げやりで吐き捨てるような、大したことじゃない話みたいにして、姫にポロッと喋っちゃう、的な内容です。
姫が「ルーファスが求めてる光ってもしかして」ってちょっと核心に迫るようなことを言いかけると、「しまったな」って感じでぴしゃっとシャッター閉めて、敵を睨みつけるような目で見て、それ以上入ってくるなと言わんばかりに機嫌を悪くして、どっか行っちゃうんですけど、結局ね、姫がルーファスを追いかけたり探したり迎えに行ったり、そうやってたくさん構ってあげると最後はご機嫌なんです(太陽スト
か わ い い か よ。←
遊びの天才っているじゃないですか。
パリピとかじゃなくて、なんでも遊びに変えられる天才。ルーファスってそれだと思います。
実は今章、文壇の国で失われた書籍の在処について最初グレアムくんは「特別な加工をして湯の中に隠したんじゃないか」って推理したんですけど、そしたらね、ルーファスが突然キエルをお湯の中に、どぼーんって。
そして自分もじゃばじゃばお湯の中に入って、その辺一帯のとんでもない数ある温泉を指差して、「誰が先に見付けられるか競争しようよ」って言うんです。
「ふざけてる場合か」ってアヴィには、「じゃあ先に見付けた人がお姫様とキス」って。
「なんだって?!」「姫にそんなことさせる訳にはいかないぞ!!」ってなったら、アヴィにもばしゃってお湯かけるw
みんなの遊び心に火を付ける方法まで心得てる。
キエルはとりあえずお湯にどぼんさせたら笑ってくれるだろうし、アヴィは姫をご褒美にしたら乗ってきてくれるだろってw
そうやってみんなでわちゃわちゃして、ふざけ合って、笑い合ってるのがホントに大好きなんだろうね。ケナルで宝探ししたときもそうだった。
トルークビルにアダムが生まれて、夢が届かなくなって、母が死んでしまって、飢えは苦しくて、そこに居る全員が負の感情に駆られながら暗い暗い闇の中を生きていた20年、ルーファスだけがほんのちいさな遊びを見付けて、兄さんをからかって笑って、それが彼の「光」だったんじゃないか。
フレイグが新世界を創ってその支配者になって、アダムは駒のようになって、アトラスは飢えから解放され、トロイメアは弾圧されて、そうすれば自分たちを苦しめて来たものは何ひとつなくなるはずなんだけど、そこにルーファスが求めてる光はたぶんなくて、たった1日でも、1時間でも、フレイグやイザークにお湯をかけてからかって遊んで、弟たちが笑ってくれたら楽しくて、嬉しくて、幸せで、ルーファスが求めてるものってきっと、ただそれだけなんだなって思いました。
今回彼が姫たちについてムーンロードを渡ったのは、最初はただの気まぐれだったり「こっちの方が一緒にふざけれる人居るから」とかだったのかも知れないけど、今はホントに兄弟でわちゃわちゃ楽しい時間が戻って来るかもって、その光を信じてくれてると思います。
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